誤報


 或る日、日勤が終わって残業をしていると、夕食の配膳が始まり出した。あ、もうそろそろ帰らなくちゃな、と思っていると、突然非常ベルが鳴り出した。火災報知器が作動したのだ。「地下室で出火、地下室で出火」一斉放送が入る。準夜帯のスタッフは配膳に入っている。手は放せないだろう、と思って、看護室の消化器をひっつかんで、廊下に飛び出した。既に色々な病棟からやはり消化器片手に飛び出してきた看護師達が廊下や階段に溢れている。紛れて一緒に地下室まで走る。地下室には厨房や風呂場、ボイラー室等、出火原因になりそうな部屋が沢山在る。消化器片手にそれぞれ手近の部屋を点検するが、どこにも火の気は無い。「誤報だよ〜」と口々に言い始めたが、誤報にしても作動してしまっている探知機を探し当てて解除しないといけない。「どれだ?」今度はそれぞれ天井を見上げてうろうろ地下室を歩き回る。しばらくして「あ、これだ!」という声が上がった。それは、廊下の火の気などまるでない所に設置されている探知機だった。解除するのは駆け付けていた事務職員に任せることにして、ナース達はぞろぞろと病棟に戻っていった。「夕食の忙しい時間帯に……」とぼやきながら(でも多分駆け付けたスタッフの大半は残業していたナースと思われる。こういう夜勤帯でも忙しい時間帯ではなかなか準夜帯スタッフは病棟を留守に出来ない)。


 人騒がせだな〜、と思いながら看護室に戻っていったが、今勤務している病院では数ヶ月前にボヤ騒ぎがあってその時も報知器はきちんと作動していたので、全てが誤報というわけではない。結果、火災報知器が鳴る度にスタッフは消化器を持って走っていくのである。何故か、そういう時にナースという職種の人間は、異様に素早い。非常事態に慣れている?