悪性症候群 neuroleptic malignant syndrome


 抗精神病薬の治療中、希に抗パーキンソン病薬の中断時に見られるもの。薬物のドパミン受容体遮断作用との関連が考えられている。その他原因としては、筋注など非経口的使用法、患者側要因などが考えられている。……なんて言っているが、要するにはっきり言ってしまうと、抗精神薬の副作用らしいのだけれど、よく分かっていないのだ。


 症状としては、抗精神病薬投与後、数日〜1,2週以内に高熱、筋硬直、無動、頻脈、発汗、流涎、振戦、嚥下困難などの錐体外路症状、無動無言あるいは激しい興奮、頻脈、発汗、唾液分泌過多、流涎などの自律神経症状が比較的急激に出現。さらに意識障害などをきたし、血清CPK活性の上昇、ミオグロビン尿などが見られることもある。死亡率は20〜40%と報告されている。適切な処置を講じないと死亡することも希ではない恐ろしい副作用。悪性高熱に似るというが、発症・経過ともにより緩徐らしい。


 ナースサイドで一番これの症状として目につきやすいのは首が硬くなる、所謂、頸部硬直である。これが起こると、本当に患者さんは俯くことさえ出来なくなる。これ以外の症状は悪性症候群以外でも起こり得るが、頸部硬直は比較的悪性症候群に特徴的な症状なので、見分けやすい(但し、脳に損傷が起こって脳圧が上がったりした時等にも頸部硬直は起こることがある)。


 治療としては、抗精神病薬の中止、補液、抗パーキンソン薬筋注、ダントロレン静注、身体の物理的冷却などがある。というか、要は抗精神病薬の副作用なので、抗精神病薬を止めてしまうのが一番手っ取り早い(但し、その場合当然だが精神症状は悪化する)。


 この悪性症候群は、精神科で働いている医療スタッフにとっては一番怖い副作用だ。幸い私はまだ見たことが無いが(これからも見たくはない)。悪性症候群の既往のある患者さんに医師がドサドサ抗精神病薬を投与した場合、看護師はドキドキしながら患者さんの様子を見ていることが多い。


 なお、個人的な印象としては、経口で抗精神病薬を投与するより、輸液の中に混入して点滴で抗精神病薬を落とす方が悪性症候群の発症率が低い気がする。ナースサイドとしては、点滴の管理が大変だが……(何分精神科の患者さんは自分で点滴を引っこ抜いてしまったりチューブを口で噛み切ってしまったり点滴スタンドを蹴倒してくれたりすることが有るので)。