後悔

 先日、他の病棟で或る患者さんが亡くなった。食パンを盗み食いして、気管に詰まらせて窒息死したのである。


 その患者さんは、少し前まで私の勤務する閉鎖病棟に入院していた。精神症状が落ち着いてきたので、開放病棟に転棟したのである。


 うちの病院は毎年1月に院内餅つき大会を行う。患者さん達にもお餅が振る舞われるのだが、その患者さんは嚥下があまり良くない、という理由で食べられなかった。食欲旺盛な人で、「お餅、お餅」と騒ぎ、誤魔化す為にお餅を配る時間はナースルームに入って貰って、煎餅を囓って貰っていた。彼が開放病棟に移ったのは、その少し後のことである。


 或る日、お餅つき大会の反省を病棟でしていた時、或るナースがぽつりと、「○○さん、あんなに早く亡くなっちゃうんだったら、お餅食べさせてあげれば良かったねえ」と言った。私も、そう思った。餅を小さく切り刻んで、ナースが側に付き添っていれば、食べられないことはなかった筈だ。だが、私達は万が一のことを恐れて、食べさせなかった。今になってみれば、食べさせてあげれば良かった、と思う。だが、今更どうにもならない。彼は亡くなってしまった。


 大体のことは笑い飛ばすことで毎日をやりくりしている私達の病棟で、珍しくしんみりとした話だった。