ちょっと変わった抗精神病薬

 スルピリド、という薬が在る。これは成分名で、製品名で言うと、「ドクマチールDogmatyl」(藤沢薬品)、「アビリット Abilit」(住友製薬)、「ミラドール Miradol」(シェリングプラウ)等が在る。これはベンズアミド benzamide(ベンザミドとも表記される)系の抗精神病薬なのだが、最初は抗潰瘍薬として登場した。しかし、中等量では抗うつ作用、大量では抗精神病作用が有ることがわかり、現在では精神科でも広く用いられている(但し、抗精神薬では古い世代の方に入る定型抗精神病薬の一種なので、以前よりは使われる頻度は低下しているかもしれない)。


 このスルピリドは、視床下部交感神経中枢に作用して胃血流を改善する作用があり、視床下部交感神経中枢が情動に関与する部分であることから、抗精神病作用も持ち合わせる。代表的な抗精神病薬であるハロペリドール haloperidolと比べると力価は低く、ハロペリドール 1(mg)に対してスルピリド 100(mg)である。


 また視床下部の隆起漏斗系に抗精神病薬が作用すると、隆起漏斗系のプロラクチン prolactin(ホルモンの一種)分泌抑制作用を抑え、血中プロラクチン濃度の上昇を起こし、副作用としての乳汁分泌や月経異常(月経の停止、遅延等)を引き起こすことが有る。プロラクチンの分泌は妊娠時に増加するので、要するに妊娠に似たホルモンの状態になってしまって乳汁分泌や月経停止(妊娠中は月経は停止する)が起こる、と。ちなみに、授乳中の女性ではプロラクチンは排卵を防ぐ役割も持っている。男性におけるプロラクチンの作用は不明だが、腫瘍からプロラクチンが過剰に分泌されるとインポテンツを引き起こすそうだ。


 胃炎や胃・十二指腸潰瘍はストレスの影響が大きいのはよく知られていて、そういったストレスの緩和の為に(いわば心身症としての胃炎や胃・十二指腸潰瘍の治療として)マイナートランキライザーが用いられることはあるが、メジャートランキライザーはあまり用いられない(スルピリドメジャートランキライザーの一種)。そして保険の適用に「胃・十二指腸潰瘍」が入っているメジャートランキライザースルピリドくらいである。スルピリドは面白い薬なのだ。


今日の治療薬―解説と便覧 (2005)

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現代臨床精神医学

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